司法書士業界には「EAJ提携司法書士問題」というのがあるようですね。
恥ずかしながら知らなかったのですが、司法書士業界以外では話題にならないニッチな問題だと思われます。ちなみに、事実の概要は下記のとおりです。
- 株式会社エスクロー・エージェント・ジャパン(EAJ)が業務委託契約を締結した金融機関からの登記案件を、EAJ提供の司法書士業務サポートシステムに登録した司法書士に依頼。
- 司法書士は当該登記案件を受託するごとに定額の「システム利用料」をEAJに支払っている。
- 上記の枠組みについて、日本司法書士連合会は、この「システム利用料」は実質的に業務依頼に対する対価であるとして、司法書士法施行規則第26条に違反するおそれがあり、また司法書士倫理第13条第2項にも抵触するおそれがある旨の見解を示した。(2020年8月)
- 一方でEAJ側は、「システム利用料」は1件あたりの定額料金であり、通常のASP・SaaS形式によるサービスと異なるところはなく、業務依頼の対価でもない、との見解のようである。
- 司法書士法施行規則26条:司法書士は、不当な手段によつて依頼を誘致するような行為をしてはならない。
- 司法書士倫理第13条第2項:司法書士は依頼者の紹介を受けたことについて、その対価を支払ってはならない。
日本司法書士連合会(日司連)が本件を問題視しているようですが・・・正直、問題の所在が今一つわかりませんでした。というよりEAJ側の説明の方が腑に落ちる感じ。
私も元司法書士ですので、決して司法書士各位に喧嘩を売っているわけではないのですが・・・。理解できていない前提や背景もあるのかもしれません。
日司連が問題視しているということは、関係する司法書士に対する懲戒処分はあり得ます。
それを考慮すると今あえて取引先や就職先としてEAJに関係する司法書士事務所を選ぶ必然性はない、とは思います。
また、銀行業務紐付きということは定型的な不動産登記(売買設定抹消)をひたすら実施するということでしょうから、そうした事務所に幅広く業務を依頼する、あるいは司法書士として幅広い業務を行うことも難しいでしょう。
ただ・・・前述のとおりそもそもの問題の所在自体が腹落ちしてないのでモヤモヤしております。
下記に日司連の見解を含め、問題点とされているポイントと、それに対して思うことをまとめてみました。
問題点1「依頼に対して司法書士が対価(キックバック)を支払っている」に関して
まず、EAJによるまともなシステム運用と司法書士による利用の実態が本当にあるのであれば、司法書士による支払いはその対価である(キックバックではない)、というEAJの主張には正当性があるのではないでしょうか。
お金の流れがキックバックに見える、と指摘するのであれば、日司連はEAJとシステム利用司法書士との関係についてもう少し突っ込んで確認する必要があるでしょう。
そもそもこの倫理規定は、キックバックが行われることで不正に登記が行われるおそれがあることを懸念して設けられた規定だと思われますので、その恐れがある関係性なのか、という点も検証が必要でしょう。
(日司連はまともに検証していないように見えるためその前提で記載していますが、もし検証済みであればすみません・・・。)
個人的には経済産業省のグレーゾーン解消制度でこの件が司法書士施行規則違反のおそれがあるかどうか、EAJから法務省あたりに照会してみてほしいですけどね・・・。ただ、法務省の回答はいつもの感じ、つまり「事情によってはおそれがないとは言えない」になると思われるので、EAJも照会しないでしょうけど・・・笑
問題点2「司法書士の独立性が害されるおそれがある」について
受注するかどうかと、受注後の処理は司法書士の判断に任されるべきでしょう。これは紹介元がEAJでも、他の誰であっても一緒です。
銀行や不動産業者も司法書士にとってはそれなりの影響力がある相手方ですが、業務遂行にあたっては司法書士の職責をきちんと果たすべきであり、彼らの言いなりにはならないですよね。
たくさん案件を紹介してくれるEAJの意向に沿った不正な登記手続きを行うようなことがあったとしたら、それは司法書士自身に問題があるということになります。
問題点3「司法書士は下請事業者ではない」について
EAJから仕事をもらうので下請事業者のように扱われてしまう、という懸念です。
相手が違うだけで、例えば金融機関や不動産業者と同じ関係性(=下請っぽい関係)にある司法書士は多いのではないかとも思いますが・・・。
それが悪い、ということではなく、基本的に依頼に応えて処理するという業務である以上、やむを得ない部分もあると思います。ただ、やはり倫理や独立性は求められるので、専門家として主張する、ふるまうという姿勢は重要でしょう。
そういう意味では日司連の見解、対応はどうなんでしょうね?EAJ側になめられている気がするのは私だけでしょうか。
問題点4「依頼者が損をしているおそれがある」について
司法書士がEAJに手数料を支払っているということは、手数料分がお客さんが支払う報酬に乗せられている可能性はありますね。
ただ・・・銀行融資を受けて不動産購入をした経験からいえば、このディールを中断させたくない、正直なところ登記は誰がやっても同じ、ちゃんとやってくれればOKという感想でした。銀行紹介の司法書士は手数料が高めかな、とも思いましたが、特に購入物件が投資物件の場合は多少の金額は取り返せますので、あえて司法書士の指定をしようとも思いませんでした。
元司法書士でもそんな感じでしたので、そもそも銀行やEAJ指定の司法書士ではなく、別の司法書士で、と積極的に依頼する人自体があまりいなそうです。
まあ、これは誰に頼んでもちゃんとやってくれるだろう、という専門家に対する信頼のあらわれともいえるかもしれませんが。
また、紹介司法書士であるということで不当に高い報酬を要求したり、不誠実な手続きを行ったりするようなことがあるとしたら、それは金融機関やEAJではなくその司法書士自身に問題があります。
司法書士は自分たちの価値や存在感を上げる方向で頑張らないと、本件のような枠組みや司法書士の使われ方は増えていくでしょうね。
本件が堂々と書かれているサイトなどがあまり見当たらなかったのは、関係者を敵に回すおそれがあるということと、司法書士の中でも実際のところ見解が分かれていることによるのではないか・・・と勝手に推測しています。
日司連にも「実質キックバックとみなされるので懲戒」という短絡的な対応ではなく、司法書士の現状と今後の活用、活躍の在り方を考えた対応を期待したいです。
(2023.11追記)結局この話はどうなったんでしょうね?白黒ついたのか、白黒つけたくないから放置しているのか。日司連がなんかしら結論づけているのであればそれを知りたいですが、中途半端にダメだししているところで止まっているのであればさすが日司連という感じです。(ほめてませんよ)